フランシスコ・カブラル 布教拡大に燃えたイエズス会宣教師の栄光と挫折

フランシスコ・カブラル

2020年6月28日に放送されたNHKスペシャル「戦国~激動の世界と日本」で紹介されたイエズス会の宣教師に、フランシスコ・カブラルがいます。
同番組では布教の拡大を図り、織田信長に鉛や銃を始めとした最新兵器を提供したとされる、いわばフィクサー的な人物ですが、本項では宣教師としての彼の素顔を折っていきます。

ポルトガル人宣教師・カブラルは1529年(和暦の享禄2年)、ポルトガル領アゾレス諸島のサンミゲル島で生まれました。
スペイン系貴族の息子として生まれ育った彼はポルトガルのコインブラで高等教育を受けてインド勤務の軍人となり、1554年にイエズス会に入ります。



軍人から聖職者に転身したカブラルは高い教育を受けていたため、4年後に司祭に叙されてインド各地の要職を歴任しました。
16年もの間、イエズス会の職務に従事していたカブラルに転機が訪れたのが1570年、コスメ・デ・トーレスの後任として日本への派遣が決まったことです。
同年の6月に天草志木から日本上陸を果たしたカブラルの同行者にはイタリア人のオルガンティノもいましたが、前年度にインド管区長代理の権限が重複したミスにより、この二人は対立関係にありました。

カブラルは冒険者的な面もあり、元軍人と言うこともあってか日本布教区責任者として着任早々、その剛直で激しい一面を発揮します。
「身なりをきちんとしないと日本人に軽視される」という事情を無視し、絹製の良質な衣服を着用する宣教師の贅沢を叱責したのです。
他にも、カブラルは日本を始めとしたアジア諸国を低く評価し、ヨーロッパこそ中心とする言動が多く、そう言った点でも和服を愛用して米を好んで食べるなど日本への理解が深く、それを日本人に愛されたオルガンティノとは正反対の性格でした。

それでもカブラルの成果は決して低いものでは無く、時の将軍・足利義昭との謁見を成功させたのを皮切りに、フロイス同伴で岐阜に参上した際には織田信長の信頼を勝ち得て庇護を受けます。
その時、岐阜の人々は眼鏡をかけていたカブラルの姿に驚き、『四つめの伴天連』を見ようと集まり、彼は一躍有名人となったのでした。

中でも大きな功績は西国での布教活動で、1556年にトーレスが訪れて以来イエズス会宣教師の訪問がなかった山口で信徒に歓迎され、キリシタン大名・大友宗麟に洗礼を授け、宗麟はザビエルに因んだフランシスコの洗礼名を名乗ります。
一方、日本語を不可解な言葉だと決めつけたカブラルは、宣教師達に学ぶことを禁じました。
また、話の内容を理解した日本人が宣教師を敬わなくなるとの理由で自らの言語であるラテン、ポルトガル語の学習も認めず、日本人が司祭になるのも許さないという状況だったのです。



その問題は、1579年にヴァリニャーノが来日した時に表面化します。
日本人を布教に適さないと断じるカブラルの制止を振り切って畿内入りしたヴァリニャーノは、日本のキリスト教徒(とりわけ武将)に会ってそれを絶賛すると同時に、カブラルにこそ日本布教区の問題があると疑い始めます。

結果、ヴァリニャーノによってカブラルはその宣教方針を否定され、適応主義と日本人司祭の教育と登用、宣教師が日本人の礼儀を学ぶことが重要とされました。
カブラルも負けじとヴァリニャーノを非難するも、2年後に布教責任者を解任されます。その後任が、豊臣秀吉と縁の深いコエリョです。

その後、カブラルは1583年に日本からマカオ、1592年から1597年までインドのゴアで管区長を務め、1609年に同地で死去します。
貴族の子から軍人、宣教師となり、アジア各地での布教に邁進した80年の生涯でした。

適応主義を採用して日本にキリスト教の種を蒔いたザビエルやトーレス、現地に溶け込んで人々に愛されたオルガンティノとは違い、ひたすらに己が絶対とするものを信じ抜いて更迭されたカブラルの言動は日本人にとってはもちろん、同じ宣教師の視点からも決して良いものとは見なされませんでした。



しかし、その後の世界史を見ればヨーロッパに限らず、どの国でもカブラルのように異なる民族や宗教に否定的な価値観が大多数であり、彼を一方的に糾弾するのが公平では無いのは言うまでもありません。
人種や宗教に端を発する問題が頻発する現代だからこそ、これらの要素から来る争いと差別に溢れていた時代を生きたカブラルの一生を客観的に紐解く必要があると筆者は考えます。

(寄稿)太田

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